2018年フライキャスティング世界選手権レポート
2018年度のフライキャスティング世界選手権へは、日本代表としてJCSFから3名の選手が参加しました。トラウトアキュラシー種目で5位入賞の浜野勝選手からの参戦レポートです。
2018年8月16日〜19日、イギリス ポートハヴェリッグにて、第5回フライキャスティング チャンピオンシップが開催された。競技はトラウトアキュラシー、トラウトディスタンス、シートラウトディスタンス、サーモンディスタンス、そしてスペイの15.1ftと18ftの計6種目。日本人選手として参加したのは、進藤氏と私、そしてイギリス在住の岡本氏の3名である。私はオーバーヘッド4種目のみのエントリーであったが、『世界を体感』させて頂くには十分であった事は言うまでもない。
15日夜に、羽田空港よりシャルル・ド・ゴールド空港へ向かい、そこからマンチェスター空港まで計18時間…アジア圏を初めて出る私にとっては、何とも長いフライトであった。
最終空港に到着すると、笑顔の岡本氏にお出迎え頂き、そこから更に車で北上した。
目的地が近づくにつれ、欧州の田舎というイメージがピタリとくる小さなレンガ造りの家がポツポツと現れた。果てなく広がり、傾斜がかった草原には、沢山の羊がいる。目線を上げ、遠くを見渡すと巨大な風力発電のプロペラが数機グルグルと回り、それだけが唯一の近代人工物という具合だ。
そんな景観を眺める事3時間強、漸く今回の会場が見えてきた。
そこは海の真隣に位置する、何とも不思議な湖。大会ホストであるリー・カミングスに海水か?と尋ねたところ、完全な淡水だとの答えが返ってきた。
併設された施設には、数十棟の簡易コテージがあり、そこが我々の拠点となった。
それにしても、本当に風の吹き荒れた大会であった。
毎朝欠かさず目を通していた風速予報には7〜8m、最も強い時間帯には10mを越す数値が並ぶ。
特徴的なのは、日本国内とは違い、強風が断続的に吹き続ける点。つまり、風の隙間がないのだ。国内でも、それなりのコンディションは体験済みであったが、これには流石に参ってしまった。
翌日より競技が始まり、何とかキャスティングをする訳であったが…結果は、皆さんがご存知の通りの惨敗である。が、しかし、素晴らしい見聞録を手にした事も白状しなければならない
トップキャスターたちの秀でた「あるテクニック」とは?
それは、タックル及びラインシステム情報等は勿論の事、何と言ってもトップキャスターたちの秀でた”あるテクニック”を確認出来た事にある。ここでは私が目にしたそれを、オーバーヘッド目線ではあるが、少々書かせて頂こう。
では、一体何か…それはラインをオモリとして成立させる為のテクニック、言い換えるなら、スラックレスへのアプローチである。特にファイナリスト達は、パワー&スピード以上に、この技術が頭一つ二つ抜けていると感じた。
大きく振り分けると3つ。
①バックキャスト
②ドラッキング ※ロッド角度を変えずに、ラインを引っ張るテクニック
③テンションコントロール
バックキャスト
「バックキャスト」は、フライキャスティングにおいては、周知の重要要素である。
ここでも大きく分けると2種類。タイトループ派か、大きなカウンターフレックスを入れた、いわゆる舟底ループ派に分けられる訳であるが、上位グループとその他では、クオリティに大きな差があったのは間違いない。
シートラウトディスタンスで優勝したラネルは前タイプ、女子優勝のアナは後タイプで、記録はそれぞれ57mと48m。
同じ強風下で、両者のループシェイプが異なる辺りは大変興味深かった。
ドラッキング
「ドラッキング」を顕著に取り入れているのは北欧を中心とした選手達だ。
彼等は長いリーチを生かして、丁寧にラインを引きつけ、ピンと張った状態を準備する。
あとはそれを投擲方向へと移す…効果は言わずもがなであろう。
個人的には、日本人との決定的な差は、身体的特徴も含め、ここにあると思う。
ちなみに、トラウトディスタンスを44mで優勝したバーントは、投擲台の上を歩きながらこれを行う。
テンションコントロール
「テンションコントロール」が抜群に素晴らしかったのはスティーブ・レイジェフである。
彼に至っては、飛距離までも管理しているかの如く、全てのラインは綺麗にロールアウトしていく。
そして圧巻だったのは、爆風の中でのトラウトアキュラシー。
映像を観ても分かる様に、彼はロッドを回す様にしてコンテュニアンスロード&コンスタントテンションを繰り返し、信じられない得点とタイムで優勝した。
他にも気付かなかった事が沢山あると思うが、リザルトだけでは決して読み取れない、チャンピオンシップの本質に触れた日々は、間違いなく私自身の次なるモチベーションとなっていくと思う。
最終日の夜、バンケットでは各種目の入賞者が表彰されていく。大きな歓声と拍手に包まれる会場。祝福の送り手達は、心から敬意を表し、その受け手達は本当に偉大に見えた。いつか自分も…そう強く思わせる瞬間でもあった。そして20日朝、何とも言えない寂しさを胸に、僕らは帰国の途についた。
今回のチャレンジは、同行の進藤氏の積極的なアクションがなければ実現しなかっただろう。身近に、彼氏の様な強い情熱を持つ仲間に恵まれた事を幸せに思う。競技への取組み方は様々である。が、もしあなたが世界を意識しているのであれば、是非チャンピオンシップへの扉を叩いて欲しいと強く思う。それがどれ程素晴らしいものか、身をもって体験してしたからこそ言える。次は二年後、開催地は未定であるが、更なる日本人選手のエントリーを期待したいものだ。
そして最後になるが、JCSFを始めとする日本からの御協力、御声援を頂いた皆様、現地アテンド&選手という二足の草鞋で終始奔走頂いた岡本氏、新たに広がった世界のキャスティングフレンズにも最大限の感謝を送りたい。
文責・浜野勝