2016年世界選手権2日目(EV5,2,3)
第5種スピニング片手投げ距離種目
大会2日目は、遠投種目から始まります。今までのほとんどの大会では、風のない午前中に正確度種目を行い、午後に遠投種目でしたが、ランチの時間が14時からというスペイン時間に合わせてか、時間に余裕のある午前中に遠投種目を行うというスケジュールが組まれました。
しかし、朝一番から5種というのは、初めての経験。時折吹く風にも翻弄されつつ、予選を終了して決勝に残ったのは、71mのボーダーラインを超えた8名の選手。ひとつ頭を超えたのはスロベニアのDusan、74m台に乗せてきました。自身も「遠投バカ」と称するスペインのVicentも73m台と続きます。健闘したのはドイツのWieboldとスイスのMarkusの2人。熟練の業を持って飛ばしてきました。そんな強豪たちを尻目に、決勝で抜きん出たのは、1種に続いて金メダルとなったポーランドのPawel Stopa、78m56cmで堂々の1位。2位はこの種目を得意とするスロベニアのDusan、77m62cmと、これも良い記録です。女子の記録も好記録です。1位はドイツのSabrina、71m37cm。他の選手が60m台にとどまる中、1人大台にのせてきました。2位はチェコのTereza、3位はポーランドのOliwiaと続きました。
よく聞かれる質問のひとつに「5種のリールは何がいいんでしょう?」があります。そこで今回の8名の決勝進出者が使っているリールを調べてみました。その内訳は、TAPリール=3、Mitchell300サイズ=2、DAIWA SS1000(現行SS2600)=2、コーモラン=1でした。新しいリールは何1つありません。とはいえ各自がそれぞれに工夫をこらして改造して使っていることは間違いありません。でもPawelのMitchell300のスプールは、どうみてもノーマルにしか見えませんでした。
2種フライ片手投げ距離
5種のときだったか2種のときだったか、ドイツのHeinzとすれ違ったとき、どうだった?と会話をしたときのことです。「あと5m欲しいところかな」と答えたときに「お互い、いい歳だから仕方ないよ」と、返されました。何処の国でも着実に起こりつつある『世代交代』の波が、キャスティングスポーツにも訪れてきているのです。というよりも、現状では少なくとも世界選手権においては、『超高齢化状態』であるといえるでしょう。
1994年から数回を除いて出場している世界選手権。少なくともまだ1/3以上の選手は、同じ顔ぶれ、です。長らく出場している選手たちの多いこと。先のHeinzにしても1994年からずっとドイツ代表選手の1人です。今回ドイツチームに復帰したMichael Harterは2001年ワールドゲームズで8種の金メダリストです。ドイツを始め、チェコ、ポーランドといった国々は、少なくとも日本よりはキャスティングスポーツが盛んな国々で、夏場はほぼ毎週のようにどこかで大会が開催されています。自国で開催されていなくても、数百キロの移動で隣国に行けてしまうヨーロッパですので、その気になれば毎週大会に参加できる環境はあります。こどもの頃からのキャスティング練習プログラムが確立しているため、基礎がしっかりできている選手が多いのも、これらの国々の強みです。それだから故に、基礎がしっかりできている選手が強い種目では、その強みがより出て来る特徴もあったりします。今年の大会でいえば、2種フライ片手投げ距離が当てはまります。
『世代交代』が見受けられた他の種目に比べ、やはり「テクニック」に勝る基礎ができているチームが決勝に多くの選手を送り込みました。チェコはやっぱり強いですね。8人中4名がチェコチーム。2人がポーランドチームで、残りがスロバキアとクロアチアです。
誰が勝ってもおかしくない、この接戦を68m77cmで制したのが、チェコのKarel Kobliha。そして予選・決勝を通じて今大会で2種の最長を記録したのが、2位のPawel Stopa、予選では69m58cmを記録しています。幼い頃からの練習カリキュラムがきちんとできているチェコとポーランドでは、若手へのバトンタッチが進みつつあることが窺い知れる結果となりました。
タックルも若干、世代交代!?
今大会では、特にこの種目用に作られたポーランド製の新しいロッドが大活躍していました。1994年に初めて世界選手権に出場した際は、それ以前に作られていたFenwick、Macheusky、と、やっと出回り始めたGloomis、これら3種類くらいしか存在せず、2001年のワールドゲームズ秋田大会の前後に日本国内だけで盛り上がったキャスティングスポーツの流行で、一時期はどこの国よりも種類が選べるブランクを有する国、だった時期もありました。その後、オーストラリアのJohnの活躍で新しい競技用のブランクが流通し始め、ドイツのThomas Maireも初心者向けにと、1種から7種までのロッドやリール、その他の関連商品をPALADINというブランドから発売したり、同じくドイツからはCASTINGという入門用のロッドもはいってきたりしました。そして2年前から開発が始まったのがポーランド製のブランクです。
ベテラン勢の衰えつつあるパワーを補ったのは、培ってきたテクニックと新しいロッド、だったかもしれませんが、それらを武器にしていた選手を抑えて優勝したのは、チェコのKarelであり、2位のポーランドのPawelといった、まだまだ若手の選手です。若手が新しいロッドを使ってしまったら、勝てなくなってくるというものなのかもしれません。
(これらの新しいタックルについても、JCSFでは情報を常にアップデートしています。ご興味のある方は、日本で唯一の情報収集源となっているJCSFに、どうぞご遠慮無くお問い合わせください)
女子も若手が台頭しています。女帝Janaが世界選手権の舞台から引退したドイツからは、Nathaliが今回初参戦。スロバキアのMichaelaやチェコのKaterinaも着実に力を付けてきています。しかし、この種目で優勝を勝ち取ったのは、この種目を得意としていて、日本の大会にも何度も参加してくれているオーストリアのAlena! ここでは熟練の技で若手を抑え見事金メダルを獲得しました。
3種スピニング正確度アレンバーグ種目
今年、北海道で開催された日本選手権に参加したチェコのMilos選手(チェコの女子代表Terezaのお兄さん!)と話をした際に、チェコでキャスティングスポーツを練習し始める時に使うのは、スピニング正確度用の道具を使って、まず水平に振り子を振れるようになること、と教えてくれました。キャスティングスポーツの基本の基本が、この3種スピニング正確度アレンバーグ種目という訳です。小さい頃から徹底的に基礎を練習させられて身についているからこそ、世界選手権の場でもミスすること無く投げられるのでしょう。7位通過で決勝に進出したのは、オーストリアのDietmar。満を持しての初出場の今大会で、いきなり決勝進出です。迎えるはベテランのPatrik Lexa・チェコ、Jens Nagel・ドイツ、それにこの種目を得意とするクロアチアのGoran Ozbolt。このGoranもこの3種で強烈なデビューを飾り、早巻きギアを使わないノーマルのリールで1分10秒台で投げきるテクニックは、もちろん基礎がしっかりできているから故の技。
各コートに選手がついて、高まる緊張感の中、いよいよ決勝が始まります。スタートコールの直後から飛ばしてきたのは、クロアチアのGoran(彼のアレンバーグの的の当て方をスロー撮影した映像もとることができました。近々アーカイブページを作ってupします。)。得意の早打ちで10点を重ねていきます。ステーションの移動は「駆け足」です。歩いてなんかいられません。しかし、サイドキャストで痛恨のミス、8点!自力優勝の道は無くなったとは言え、勝負は未だわかりません。最後までトップスピードで投げきったタイムは、1分12秒!ダントツの速さでした。
そんな、誰が勝ってもおかしくないこの決勝戦を制したのは、王者の貫禄を見せたチェコのPatrik Lexa。1分32秒、予選も含めて2連続100点で優勝です。2位につけたのは、ドイツのRalf Stein。早打ちで挑む選手たちを尻目に、着実に100点を狙うためのマイペースで投げきったジャスト3分。スロバキアのKarolが2分9秒で投げ終えてからの50秒は、Ralfが100点を出すために用意されたオンステージ! みんな固唾を呑んで見守りました。早打ちは当然リスクも高まります。1分31秒とPatrikよりも早いスピードで投げきったオーストリアのDietmarではありましたが、ミスを繰り返した結果86点と、世界選手権決勝の洗礼を受けた形での8位入賞となりました。しかし、この結果は次の大会のバネになるというもの。今後の活躍に目を離せません。
この種目の女子決勝でもドラマがありました。ポーランドのNataliaが決勝戦で最後の16mの投てき位置に移動したところで突然、リールから異音がし始め、リールが巻けないトラブルが発生。ギアが欠けたか何かのトラブルのようです。しかし、なんとか手で巻いたりして乗り切ったところでタイムアップ。しばらくしてからもどこからも拍手は聞こえてきません。結果100点が誰もいなかったことから、トラブルを乗り切ったポーランドのNataliaが金メダルを獲得しました。おめでとう、Natalia!