Casting Tips vol.1 第8種マルチプライヤー正確度種目

キャスティングスポーツの魅力をいろいろな角度からご紹介するコーナー『Casting Tips』。
記念すべき第1号は、マルチプライヤー正確度種目、を取り上げます。キャスティングスポーツをよく知っている人は「何故?」と思われるかもしれません。そこを「敢えて」この種目を選んでみました。

マルチプライヤー正確度種目

この種目は、日本で言うところの「ベイトリール」を使って正確に投げる競技です。マルチプライヤーリールとは、日本で言うところの「ベイトリール」です。両軸受リールとも呼ばれている、バックラッシュしちゃうアイツです。このリールを使ったキャスティングスポーツのカテゴリーは、マイナーと言われる『キャスティングスポーツ』の中でも、更にマイナーで、欧州の選手の中には、この種目に参加しないという人までいたりします。それは何故か?
「ベイトリールを使う釣りがない」この一言につきるでしょう。
実際にヨーロッパの国々で釣具店に行ってみると、北欧の国々ではABUのベイトリールを見かけることはあったとしても、ドイツやフランス、特に旧東欧と呼ばれていた国々では、ベイトリールを見かけることはありません。思い返してみると、例え日本であったとしても、実際の釣りで使われるリールのほとんどは、スピニングリールなのです。ブラックバス以外で、ベイトリールで釣りをする、といったら……石鯛釣り、石鯛用の道具を使った鯉釣り、堤防からのカゴ釣り、くらいしか思い浮かばず、後は船の上からのジギングやトローリング、かと。鯉釣りも、カープフィッシングと名前を変えると、スピニングリールがメインになります。このように、ベイトリールとは実は、ブラックバスの釣りが盛んな、アメリカと日本がマーケットリーダーなのです。

マイナーなスポーツ、キャスティングスポーツ

その中でもマイナーなマルチプライヤー正確度種目。だからといって、レベルが低い、という訳ではありません。世界選手権の優勝スコアはもちろん100点。12mから2m間隔で20mまで、5つの的が並び、それぞれに2投ずつを、2ラウンド。合計20投全部命中させてくるのです。的は76cmの黄色い円盤。前方5cm後方17cmの高さに傾斜が付けられています。近くで見ると「デカっ」と思うのですが、それが、やってみるとなかなか当たらない。しかし、世界選手権優勝者は、極限のプレッシャーの中であっても、当ててくる。技を極めているのです。
使われている道具が、これまた面白い傾向があります。
まずはベイトキャスティングリール大国、アメリカ。キャスティングの神様「スティーブ・レイジェフ」を筆頭に、未だに使われているリールは、ダイレクトドライブリール。LangleyやShakespearといったリールが使われています。以前はダクロンを使っていたラインだけは、PEに変わったようではありますが、プラグの軌道をコントロールしやすいとのことで好まれて使われているようです。
かたや、ヨーロッパ勢はというと「スウェーデンがあるんだからABUでしょ」かと思いきや、そんなことは全くありません。近くのお店に売っていないのですから、通販で買うしか無い、となるとアメリカのBassProShopsとかCabelasで買っているようです。しかも、ほぼ全員が、左手巻きリール、を使っているのです。ピストル型グリップを使っている選手もほとんどいません。ストレートグリップの上にグリップテープを巻いて厚さを出して、握りやすくしているのです。そして、もっとも大きな特徴は、リールの外側、ハンドルの近くにギアを1つ付け足して、ハイスピード化している選手が増えてきた、ということです。
ハイスピード化するには、当然外付けのギアが必要になり、その分重量が増します。そんなリールがついたハンドルを最もバランスよく握るためには、ハンドルが地面側に付いている方が安定する。ということは必然的に左ハンドルのリールを選ぶことになるというわけです。もちろんそれ以外にも、長らくスピニングリールばかり使ってきた右利きの選手にとっては、投げ終えた後にロッドを持ち帰る理由を見出すことができないようです。「持ち変える時間が勿体無い」と、合理的な考えからハイスピード化していない選手も左ハンドルを好んで使っているのです。13:1といったような驚異的なハイギアでの巻き上げは、文字通りプラグが飛んで戻ってくる、それくらいのスピードでの回収を可能にしているのです。使われているロッドも、おそらくはスピニングロッドがベースなのでしょう。6フィートよりも短い柔らか目のブランクのロッドが多く使われています。それ故にストレートタイプのリールシートが使われているのは、納得できるというもの。動かぬ証拠としては、大きな口径のシングルフットのガイドが付いているということでしょうか。

アメリカ勢も負けてはいません。クラシカルなリール、チャンピオングリップと、FC38(Fenwickのキャスティング競技用ロッド)に代表されるようなパラボリックなロッド(その選手はGloomisの競技用ブランクを使っています)で、非常にオーソドックスなタイプではあるのですが、Henry Mittelが使っているShakespearのナイロンギアのリール、よく見るとHenryは巻き上げ時に、ハンドルを反時計周りに巻いているのです。そして、プラグが猛スピードで飛び跳ねて戻ってきていました。Henryに「ハンドル反対に回してるけど、壊れたか?」と聞くと察したらしく「ギアを入れて修理したんだ」とのこと。見るとハウジングに見慣れないピンが1本刺さっていたのでした。簡単な構造のダイレクトドライブリールの内部の隙間を上手く利用した改造がなされているようです。みんないろいろなことを考えているのです。
というように、この種目はある意味、ガラパゴス的に進化した部分もありますが、やっていることは至ってシンプルで、18gのプラグを20回、決められた順番に的に当てていくだけ、というシンプルな競技です。距離は12mから20m。ブラックバスのトップウォーターフィッシングでも実際に使う距離よりも近いかもしれません。「近いんだったら当たるだろう」って思われるかもしれませんが、いやいや、なかなか難しいのです。これが。
世界的にもマイナーなこの種目ということもあり、日本でもそれほど浸透している種目ではありませんが、JCSFでは2014年度からは積極的に大会を開催し、その中でこの種目も開催したいと考えています。バス釣りの道具を持っている皆さん、特にトップウォーター用の道具を持っておられる皆さん、ぜひとも一度、この競技を体験してみてはいかがでしょうか? 自分のキャスティングのスキルアップのためにも、ぜひJCSFの大会にご参加いただきたいと思います。

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