Casting Tips Vol.5 フライ片手投げ距離種目

キャスティングスポーツの魅力をいろいろな角度からご紹介するコーナー、『Casting Tips』。第5号では、国内で最も人気の高い種目のひとつでもある「フライ片手投げ距離種目」を取り上げます。この種目、38gで長さが15mもあるシューティングヘッドを使って、どれだけ遠くに飛ばせるか、を競います。タックルはもちろん、専用のロッドとラインをつかいます。ロッドの長さは3m以下となっており、ほとんどの選手が3mに近い長さのロッドを使っています。
この種目、ただ単に力があれば遠くに飛ばせるか、というとそんなに甘いモノではありません。やはりテクニック、が必要です。そしてその技術というのは、自ら体験するだけではなく、コーチに教えてもらう、ということで飛躍的にスキルが上がる、ということが、記録となって現れているのです。また、今や一般的なテクニックになっている「ダブルフォール」。これは元々はトーナメントキャスティングの飛距離アップのために産まれたテクニックの1つでもあります。トーナメントキャスティングが「釣り」のために残した最大の成果のひとつといっても過言ではないでしょう。そんなトーナメントキャスティングの技術のなかで、今また、釣りのために発展するかもしれないテクニックが1つ使われていることは、ご存じない方もまだ多いかもしれませんので、ここでご紹介させていただきます。
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この写真で投げているのは、ポーランドのマグダ・クザ選手。シュート直後の左手の位置に注目して下さい。肘が曲がったまま、その手の位置はほぼ胸の位置にあります。実は、シュート直後に素早くこの位置に戻した、のではないのです。この位置までしか左手を使っていない、つまりシュート時のフォールは『超ショートフォール』、若干30cm程度、しかホールしていないが故に、この位置までしか動かない、のです。
「フライ種目」の紹介ページにも、3枚の写真を載せています。チェコのパトリック、スウェーデンのホーカン、そしてアメリカのスティーブ。これら3枚の写真からもシュートのタイミングのときのフォールのタイミングは、ロッドに荷重が十分かかってから、フォールしようとしていることがわかります。右手の位置はかなり前にありますが、左手は動いていません。スティーブが早めに動き出しているように見えます。欧州の選手たちの特徴は、前述のような「超ショートフォール」タイプなのです。ギリギリまでロッドに荷重をかけて、最後の最後でシュートするときに左手も使って、文字通り『弾く』ようにラインをリリースする。そのためには、ロングストロークのフォールは必要ない、ということなのです。なので必然的に左手(右手投げの場合)は後方まで移動すること無く、逆に肘でブロックするかのごとく急激に止め、その瞬間に爆発的に力を放出する、ということなのです。
Youtubeにも数多くの動画を上げているドイツのキャスティングクラブのコーチ、Olafとこの件について、3年ほど前に語り合ったことがあります。彼からの質問で「フライ片手投げで重要なのは右手か左手か」と聞かれました。超ショートストロークを理解していなかった我々は、ループコントロールのためには左手も必要だが、右手のほうが重要だろう、と応えましたが、彼はドイツ人らしくきっぱりと『左手がはるかに重要だ』と断言していました。その後、数多くのビデオテープや実際の選手のキャスティングを見るにつけ、釣りのキャスティングから考えると奇妙とも思える左手の動きをする選手のフォームに気がついたのです。男子ばかりではありません、女子の選手も飛距離を稼いでいる選手たちは、みな同じように左肘でフォールをブロックしています。
このテクニックは、東欧の選手から広まったようです。そして各国のコーチたちがそれに気づき、自国の選手たちに広げていった。優れた技術が根付いていき、そしてレベルが上がっていく、というエコ循環が機能していることがわかります。反面日本では、というと、未だにスティーブが1980年代に来日したときのテクニックが「ディスタンスキャスティング」として残っていたり、1990年代後半に来日したトーマス・マイレやミハエル・ハーターたちのスタイルが残っていたりします。しかも、その本質のいち部分だけが際立ったあるいみ独自のスタイルとして進化してきました。
もちろん、このような進化のあり方も、それもまたキャスティング、というものです。しかし効率よく、今の道具にあったテクニックで飛ばすことで飛距離が今まで以上に出すことができるのであれば、それは学ぶべき対象でもあるわけですし、受け継いでいくべき内容でもあると思われます。
百聞は一見にしかず、まずは下記のリンクから映像を見て下さい。

Olafがとった2012年の大会の模様です。ドイツの選手には後方まで手を伸ばしてバランスを取る選手もいるようですが、殆どの選手が左肘でフォールをブロックしてそのまま前に戻している様子がわかります。
このテクニックを釣りのキャスティングにどのように活用するか、それはこれからの時代のつり人たちが改良してくれることと期待したいと思います。いずれにしても、キャスティングのテクニックは、互いの技術の研鑽のなかで磨き上げられ、ヨーロッパ諸国では、それがコーチを通じて後世に伝えられているのです。JCSFでも同じように今の技術を自らの記録向上だけにとどまらず、キャスティングスポーツの発展の一助になれるようにと考えています。

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