EV9 マルチプライヤー両手投げ距離種目

スピニングリールの代わりに、日本でいうところのベイトリールを使って飛距離を競うのが、この種目です。

8種9種は軽んじられている?

使うロッドはスピニング両手投げ距離種目と同じものを使うのが基本です。スピニングリールとは違って螺旋を描いてラインが放出されないため、ロッドに乗せるガイドの大きさは小さくても大丈夫です。そのため、専用のロッドを使わずに、フライ両手投げ距離種目用のロッドの3ピースの場合は先端2本を、4ピースの場合は先端3本を使っている選手もいたりします。120gのフライラインを乗せて投げるロッドと18gのプラグを乗せて投げるロッドで同じものを使う、という現象がここでも起きています(逆もまた真なりで、サーフ用のロッドでフライ両手投げ距離種目用のロッドを作ることも可能でしょう)。
1−7種の得点を競う7種総合種目があることから、8種9種は競技をしない、という選手も多くいますし、逆にこの2種目に命をかけて出場してきている選手もいます。2011年にこの種目で2位、8種では優勝したJan Kita選手はその典型です。

リールは標準でついているレベルワインダーは外して使うか、ラインを通さずに使います。元々は巻き取るための装置ですので、投げるためには必要ありません。その代わり、巻き取るときは自分の指で押さえたラインをスプールの幅に合わせて左右に動かして、均等に巻き取っていきます。使うリールは、ノーマルで使えるリールもありますが、殆どの場合は、チューニングして使います。

UKのColin選手のバックラッシュの瞬間。リールからはラインが溢れ、下から2つ目のガイドにラインが絡まっている。

ベアリングの交換とオイル選択

チューニングの基本は、不要なパーツを外すこととベアリングとスプールの交換です。ABU2500Cのチューニングの実際です。
1)レベルワインダーの取り外し
2)ベアリングの交換
3)スプールの交換
標準でついているスプールは、糸巻き量が多すぎることと、スプール本体の重量が重いことで、そのまま使ってしまうとバックラッシュを連発することになります。それを抑えるには遠心力ブレーキを大きくすることが必要になりますが、となると飛ばなくなるので、意味をなさなくなるというもの。そこで登場するのが、遠投用スプールになります。Avail社のスプールが、今の世界選手権のトップクラスの選手のリールには装着されていることが多いのは、ここ10年くらいのトレンドです。次の重要なのはラインの巻取り量。この長さを把握せずにはこの種目は戦えません。余分なラインは余分な重量超過を招きます。トラブルの原因にもなりますし、逆にラインが短いとせっかくの記録を取り損なうことになります。船釣り用のカウンターを使って、自分のリールに何メートルのラインが巻かれているかを把握する必要があるのです。

Ryobiのカウンターが便利です

専用リールの歴史

スウェーデンの選手はABU2100スポーツが未だに多い。とはいえこの写真は2011年。流石に今は…?


1970年代に作られたABU2100スポーツが、2000年頃まではこの種目のリールの代名詞でした。しかし、ABUの故郷、スウェーデンの選手によって施されたチューニングが、2100スポーツに引導を渡しました。ABU 1600S(SM)の時代がやってきます。小さいスプールの壁面を削って、より軽量化したスプールは、リール本体も入手しやすかったこともあり一気に広がっていきました。またスプール本体を自分で削るという猛者も登場し、独自の工夫を施したリールが登場したのもこの時代です。そしてABUは同じ番手で1600SXというリールをデビューさせ、日本専用モデルとして登場したリールを、スウェーデンのショップが逆輸入で左ハンドルモデルを取り扱いだし、広まった、ということもありました。

ポーランド勢はほとんどがABU2500Cを使っている。スプールはもちろんAvail。


そして次に登場するのが、Availスプールなのです。最初にAvailに目をつけたのはUKの選手たちでした。2500CのフレームをCTタイプに改造し、この種目用の専用リールとして持ち込んだのでした。Colin、Andyの2人の選手の世界選手権出場に合わせて広められた2500Cが、今のこの種目の主流のリールとなっていることは事実です。本体のリールが全世界で広まっていることで入手しやすいことが大きな理由です。とはいえ、日本のメーカーのリールが負けているわけではありません。

シマノとダイワ

日本の選手が使っているリールは、ABUよりも日本のメーカーのリール。日本びいきというわけでもないのでしょうが、実際に使いやすいリールとして、選ばれているようです。一番多く使われているであろうリールは、シマノのアンタレスAR。初期のマグネシウムスプールのものではなく、アンタレスARです。このリールは無改造でもいけるのですが、多くの選手はレベルワインダーと上部のカバーを外して使っているようです。かたやダイワのリールでは、ロングディスタンスを明記しているリール「TDZ HLC」が使われています。今のシマノとダイワのリールに共通するのは、ほぼ無改造でチューンドリールと競い合えることです。ベアリングを洗浄してグリスを抜いて専用オイルを指すだけで、充分競い合えるポテンシャルを持っています。もちろん、ブレーキブロックのサイズの調整など、細かなことは必要となりますが、そのあたりは各論の記事に続きます。

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