世界選手権レポート①

2014年度世界選手権レポート第一弾は、小田切選手です。
出場回数5回を数える小田切選手は、切り込み隊長としていろいろな国の選手たちと交流を深めてくれています。母国語でない英語をお互いが使うときに、どうしても出てしまう気後れ。それは日本人だけではありません。中・東欧の国の選手、若年層の選手は、我々と同じくらい「英語が苦手」なのです。そんな中、物怖じせずに話しかけ、あっという間に仲良くなってしまう小田切選手のお陰で、どれだけ交流が広まったか、その影響は計り知れません。今回は、肩を痛めてしまって不本意な成績だったかもしれませんが、いやはや、いろいろと貢献してくれました。

2014年 世界選手権 ポーランド・シャモトリー大会に参加して

西日本キャスティングクラブ 小田切 栄

早いもので、世界選手権から帰ってきてもう一ヶ月過ぎようとしています。
考えてみると今回は出場までにたった一ヶ月しかなかったわけで、よくあれだけの短期間に準備をできたものだと思います。
これも、自分だけでできたわけでもなく、代表メンバーだけで出来たわけでもなく、ほんとに多くの方からのサポートをいただいたことで出来たことでした。
この10年間に5回世界戦を戦ってきましたが、今回ほど使命感と感謝を覚えたことはありません。
サポート、ご支援、応援をいただいた皆様に、心からお礼を申し上げます。
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今回の世界選手権はポーランドのポズナンから車で1時間弱のシャモトリーという町で行われました。会場はスポーツセントラムシャモトリーの陸上競技場と、そこに付属しているサッカーコート2面を使い、ポーランドの釣団体「PZN」が大きなサポートをしてくれた、かなり盛大な世界選手権でした。
個人的には行きの乗り継ぎ先のデンマーク・コペンハーゲンで、不覚にも肩を怪我してしまい、十分なコンディションで試合が出来なかったことは残念でなりませんでした。
他のメンバー二人がその分、めらめらと使命感を帯びて決勝進出3種目、そしてEV9での銀メダル獲得と奮起していただいたことは皆さん、ご存知かと思います。
世界選手権で決勝に進出するのは、ほんとに大変なことです。
多くの選手が「的ひとつ」「飛距離1m」の中に入り乱れるので、技術力もさることながら精神力と集中力がとても重要になります。
僕が世界戦に参加できる前、当時の日本代表選手に「的当ては100点かそれ以外だからね」って言われていました。つまりは50点でも95点でも決勝に行けないのは同じってことなんです。
もちろん、コートのコンディションによってはそんなこともないのですが、確かにそのくらいのレベルではあります。だから練習の時は普通に全部当たるのが当たり前で、そこに大きなプレッシャーがかかった時に、やっぱりパーフェクトでないと決勝に進んでメダルが取れないわけです。
もちろん距離種目も同じです。何メートル自己記録で飛んだかは、さほど重要なことではなく、持ち時間の中で数回訪れるチャンスを逃さずにベストのキャストが出来ることが重要です。
日本のフライキャスティングは的当てに関しては世界トップレベルですが、距離種目はまだまだ戦えるレベルには残念ながら至っていません。大きな体で、ものすごいティップのスピードを出す外国の選手にはいつも度肝を抜かれますが、みんなすごく考えられたキャストを身につけています。それはフォルスキャストがどうとか、ループがどうとかというのではなく、投擲する一番肝心のシュートのティップスピードをどうマックスに出来るか、そして基本中の基本、キャスティングプレーンを外さないことが、とにかく段違いのレベルにあります。こればっかりは実際に見てみないとわかり難いことなんですけどね。
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今回は陸上競技場を使用したことから、コートは風向きに関係なく張られたので、ほぼ強い横風となりました。ディスタンスコートも同じで、フライ種目はEV2は追い風でしたが、他の種目はすべて斜め横からのあまりいい条件とは言えないコート設定でした。
リザルトを見ると案外パーフェクトが少ないのはそういうことが原因です。キャスティングは風との戦いになりますので、これを上手く生かした選手が勝っています。
加登選手が銀メダルを取ったEV9も、左からの横風だったので、左利きの絶対有利な条件だったことは確かです。実際に、勝ったイギリスのコリンは左利きでしたから、条件を上手く活かしたわけです。僕も左利きですから、決勝に行かなくちゃ行けませんよね・・・
今回だけでなくいつもそうですが、どんな条件でも全員がイコールコンディションですから、練習もそういう想定を考えなくてはいけませんよね。
4年ぶりの世界選手権で一番変わったと思ったのは、EV8(マルチプライヤーの的当て)です。この種目の世界的なレベルが、見違えるほど飛躍していました。マルチプライヤーリールがあまり普及していない中央ヨーロッパでも、ものすごくスコアが上がっていました。
アメリカやスウェーデンの選手が強い種目でしたが、今ではどの国も、そん色ないレベルになっています。これには驚きました。
日本もEV8のレベルはとても高いので、自信を持っていい種目です。この種目の世界チャンピオンは近いうちに日本から出てもおかしくないはずです。
しかし、これだけスコアが上がっているのに、ロッドは短くてすごく硬いものを使い、たらしは「おいおいマジか?」というほど長くとって投げている選手も多かったです。
当然、プラグは高く上がり、そこからサミングでプラグを上手くコントロールしてヒットさせてくるので、いったいどんな深視力なのかと思っちゃいます。
日本で言うコンバットキャストは、ターゲットとプラグがなるべく視界から離れないようにするために、柔らかいロッドを使います。ロッドのベンディングが深いほどプラグは低く出せますし、プラグスピードを抑えるために低弾性の素材を使うのが一般的です。なんだか、それを一蹴してしまうほど、的に当てることが上手いのです。
もっとEV8も練習しなくちゃと思いました。
毎回、世界戦にはニューカマー的なヒーローやヒロインが生まれます。
もちろん、突然出てくるわけではなく、自国で十分な実績をもった選手が当然出てくるのですが、いきなり世界チャンピオンを獲得してしまったり、ジュニア(18歳以下)が大活躍をしたりということが起こります。今回はエストニアからやってきたドミトリという選手が、EV7(スピニング両手投げ距離種目)で飛びぬけて優勝しました。面白いことにこの選手、フライキャスティングが専門の日本でいうフライキャスターなのです。
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8月にノルウェーで行われたフライキャスティングの世界選手権にも出場していた選手だそうですが、ヨーロッパの鯉釣り用の柔らかいロッドを使い、とにかくロッドをぶんぶん振っていました。投擲が近くだったので、予選から見ていましたが、ここまでロッドを振る選手は初めてみました。じつにすばらしいキャスティングでしたよ。
女子ではジュニアからあがってきたチェコのカトリーヌ・マルコバが、貫禄のある活躍を見せていました。
これからの女子選手は、マルコバとポーランドのマグダレナ・クザを中心に若い世代が活躍して行きそうな雰囲気でした。ドイツの女王ヤナ・マイゼルに続く、新しい世代の台頭という感じがしました。
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もちろん、ベテラン勢も健在でチェコのパトリック・レクサをはじめ、ヨゼフとヤンのルクサ兄弟、円熟期に入ったカレル・コブリハはオールラウンドのワールドチャンピオンに輝きました。
また、今回はベテラン揃いのスロバキア勢が非常に調子を上げており、チーム戦でドイツ、ポーランドを抜き、2位の位置に付けていました。
ポーランドは若い選手とベテランとが上手く混ざり合った構成になり、選手層もチェコ、ドイツとならんで厚いことから、今後への勢いを感じます。
ドイツは未だベテランが強く、若手の台頭が待たれるというところでしょうか。
今後、チーム戦の強豪になりうる可能性はクロアチアが一番でしょう。この国は選手層こそ、チェコ、ポーランド、ドイツには及ばないまでも、全員が20代前半の選手で占められており、個別の種目ではいつも金メダリストが出ています。特にエースに成長したゴラン・オズボルトは体格もよく、ペンタセロンで世界チャンピオンに輝く日も近いのではないでしょうか。
何度も世界戦に行っていると、仲のいい選手も増えてきます。
僕は大阪人なので、少々英語が出来なくても誰とでもコミュニケーションを取れてしまう特技(?)があります。日本では控えめなほうなんですけどね。
久しぶりに会った仲のいい選手たちから、とてもうれしいことがありました。
最終日の朝、試合前にリトアニアチームの選手に呼ばれてホテルの駐車場に行くと、銅メダルを獲得していた選手が大きな声で僕のことを鼓舞し、二階からアイスバックチャレンジの水をかぶってくれたのです。
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毎回、いろんなことをやってくれるリトアニアチームですが、ほんとに胸をうたれました。
肩を痛めて満足にキャスティングができなかったことを思ってくれたのでしょう。
キャスティングはみんなで競い合う競技ではありますが、誰かがミスをして勝つことにあまり喜びはありません。試合では真剣に戦いあいますが、お互いを尊敬しあい、みんなが同じコンディションで自分のベストを出すことを一番に考えます。こういうことがスポーツのいいところだと思うのです。
もうひとつ、とても仲がよく、家までとまりに行ったことのあるクロアチアチームからは、訪問させていただいたチャバリャという町のキャスティングチームのユニフォームをいただきました。このユニフォームに僕の名前をプリントしてくれていたのです。giri_cro
いままで、こんなにうれしいプレゼントをもらったことはありません。
試合だけでなく、世界選手権にはこうしたスポーツを通じた熱い交流があるのです。
毎日、日本のキャスティング事情を憂慮し、我々のもとに来てくれたオーストラリアのジョン・ウオーター氏、ドイツのハインツ・マイレ−ハンスゲ氏。真剣に日本のキャスティングの将来を考え、忙しい中、何度も何度もミーティングを重ねて下さったICSF会長のクート氏、事務局長のヨゼフ氏。今回、我々JCSFが世界選手権に正式に出場できるように、ICSFに対して積極的に働きかけてくれたポーランドのヤチ・クザ氏。
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我々が選手としてグランドに立ったことを、出場しているすべての国の選手と審判をはじめとするスタッフの皆さんが、心から歓迎してくれたことは人生で忘れられない瞬間でした。
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日本というアジアの国を、そして我々JCSFを、キャスティングスポーツ界はとても需要な国だと認識してくれています。そして、日本でキャスティングスポーツを楽しむ人が、老若男女を問わず、もっともっと多くなり、発展していってくれることを、ほんとに世界中のキャスターが望み、応援してくれていることを、とてもとても強く感じました。
僕には世界選手権を日本で開催するという夢があります。
この夢の実現のためには多くの日本選手、スタッフ、資金、労力が必要です。
とてもすぐには出来ないでしょう。でも、この夢はとてもあきらめきれないのです。
まだまだ、歩き始めたばかりのJCSFです。2001年の秋田ワールドゲームズをピークに、多くの選手がキャスティングから離れて行きました。そこにはいろいろな理由があったはずです。
でも、キャスティングって、投げるとやっぱり楽しいのです。的にヒットするとうれしいのです。遠くまで投げられると最高の気分なんです。
すべてはここにあると思うのです。
今、多くの困難を乗り越え、我々は門を開きました。小さな門かも知れませんが、その門をくぐった先には、自分の目標と努力次第で、大きな喜びが得られることだけは約束できます。
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毎晩、真っ暗なスポーツセントラムシャモトリーの競技場の観覧席に腰掛て、綺麗に輝く北斗七星を眺めました。そのすぐ下には、参加している各国の国旗が闇夜にはためき、僕は世界選手権の場に帰ってこられたことを感謝していました。
今、日本に帰り、夜の練習を終えて西の空にぼんやりと見える北斗七星をみつめると、あの光景を思い出します。
「キャスティングってやっぱり面白いじゃないか
さあ、みんな ロッドを振ろう プラグを投げよう フライを投げよう
でっかい地球のどこかで、同じことを楽しんでいる仲間たちが待っているのだから」

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