2016世界選手権3日目(EV7,6,4)
今年の世界選手権では、遠投種目を飛行場の滑走路脇のスペースを使って行われました。決して「良好」とは言い難いグランドコンディション。投げたプラグを回収するのもままならず、また足下に手繰り寄せたランニングラインは飛び出している草の茎に絡まりまくるという散々な状態。平坦に慣らされているわけでもなく、逆にウサギの糞や穴が散見できるような状況でした。滑走路に併設する車道を一本隔てた向こう側は砂浜という、海にも近い状況で、風の状況は概ね海から一定の風が吹いていることが多かったのですが、ときに静かに、ときに猛々しくと、コロコロと方向が変わりはしないものの安定しないことが多々ありました。そういうコンディションの中、大会3日目の今日も、スピニング両手投げ距離、フライ両手投げ距離の2種目が、ここで開催されます。
今回の大会では、いつもは全員に配られるスターティングリストが、当日の大会直前のギリギリになってから、各チームに1組ずつ配られる、という、非常に面倒なやり方になっていました。チームに監督がいる場合であれば、その監督が本部、あるいは本部役員に声をかけて貰ってくる、ということもできたでしょうけれど、選手兼務の場合は、それを貰いに行く時間が余裕を持つことが難しかったりします。
何故、このような面倒なことになってしまったのか。それは昨年のチェコ大会の際に、大会開始1週間前にな急遽「エントリーしたい」と申し込んだチーム(「国」ではない)に対応するべく作り直したスタートリストを、3日前に「6名キャンセル1名参加」と、大多数のドタキャンをして、運営側を大激怒させ、チームリーダーミーティングで、その分を各自消して欲しい、と主催者側が詫ていた、そういう出来事があったことを思い出さずにはいられませんでした。ギリギリまで選手の変更に対応することを想定して、変更があった場合の損失を少なくするため、結局はそれが選手のため、という判断がなされたのでしょう。昨年の出来事が今年にも影響を与えていたのであるとするならば、残念でなりません。
第7種目スピニング両手投げ距離種目
今日の最初の7種では、日本選手の失態が続きます。加登・岡本選手が痛恨の3ファール。力みすぎなのか、足下がビミョウに滑ることで安定しないためなのか、四苦八苦している間に3投とも入らぬまま終わってしまいました。
この種目の最近のトピックスとしては、相変わらずの大口径ガイド揃いではあるのですが、ロッドのブランクの返りがシャープなものに変わりつつあります。使われているのは主に、カープフィッシング用の各種ロッドと、UKのZziplexです。5lb程度のスポッド用のカープロッドのガイドを大口径にしている選手が増えています。18gのプラグを思い切り投げるには、ある程度の硬さが必要です。その最たる例が、今回は欠席のエストニアのDmitli。ガイドをその場で付け替えたロッドでいきなり優勝した2年前のポーランド大会が思い出されます。
横ぶりのスイングがメインの中欧勢のスタイルには、カープロッドのようなロッド全体がしなるアクションが合うようです。日本を含めたサーフ系のスイングを行う国、今回ではスペイン、は、日本でいうところのスイング投法をベースにしているように見受けられます。
今回、ここぞとばかりにロッド振り絞って投げて、抜きつ抜かれつのデッドヒートで決勝を勝ち抜いたのは、ドイツのRalf Stein。猛追してきた2位を最後の最後でひっくり返した、ある意味、今大会で自らを「ゾーン」に入れていた選手の1人と言えるでしょう。勝つべくして勝った、という一言が相応しい勝ち方でした。2位に付けたのは日本人の立嶋選手。去年の「世界選手権のドタキャン参加者リストに入れられてしまっていた」という汚名を、払拭する好成績を収めました。
第6種フライ両手投げ距離種目
6種でも各選手たちはグランドコンディションに頭を抱えます。足下に落としたランニングラインが絡まることを防ぐために、各コートに設置された人工芝のシート。その上にランニングラインを置くストレスだけでなく、投げ終えたラインを手繰ってくるだけでもノットが草の芽に引っかかり、ラインブレイクを起こしている選手も多くいました。
そんなコンディションの中でも、飛ばす選手は記録を伸ばしてきます。昔から強いチェコ勢は決勝に4人残りました。その中でも特筆すべきは、Karel Koblihaでしょう。
今大会で彼が使っていたロッドは、日本のブランド『K2』の競技用ブランクでした。昨年の大会で加登選手からテスト使用を託されたKarelは、この1年間で完璧に使いこなし、充分な結果を残しました。予選を1位通過したKarel。決勝でも「ここまでは飛ばさないだろう」との見込みで設営されたコートの右端に残るブッシュの中に飛ばした1投83m28cmは、横から見ている限り誰よりも飛んでいたように見受けられました。
日本のブランドが1位か、と期待された瞬間ではありましたが、6コートにいたポーランドのPawelが、1種・5種に続いて、なんとこの種目でも金メダルとなる87m28cmと、4mも上回る1投を記録していました(因みにPawelが使っていたのは完成品で販売されているPALADIN)。
ポーランドのPawelに一本行かれてしまいましたが、チェコの強さはまだまだ侮れません。とはいえ、決勝に常連のドイツチームが1人も選手を送り込めていないことは、これもまた『世代交代のひとつ』と考えられる事象のように思えてなりません。
第4種スピニング正確度種目
キャスティング初心者が最初に練習するのが、3種アレンバーグの10mからのアンダーハンド振り子投げであるとするならば、初心者が最初に挑戦する種目は、この4種スピニング正確度種目になるでしょう。簡単に扱える道具が故に、使いこなすのが難しい道具でもあるスピニングタックルを使いこなすことが、キャスティングスポーツの真髄に迫る第一歩なのです。ヨーロッパではこの種目を徹底的に練習した後で、他の種目にステップアップします。最初からフライ種目、プラグ両手投げ距離種目を始めてしまう日本とは大きく異る部分だったりします。
そして、このようにしてみっちりと練習を積み重ねてきたが故に、決勝に足を運んだ『世代交代』メンバーは、今やこの種目で常連となりつつあるクロアチアのGoran、Bruno、そして今大会で世界選手権デビューを果たした若手、スロベニアのTimとスイスのJannisの2人です。これほどまでに若手が台頭している種目は他にありません。
この種目も3種と同じく、100点を取るのが当たり前になっている種目です。
同じ得点ならスピードが早い方から8名が決勝戦に進みます。予選で100点を取ったのは4名。残りの4名は95点で時間差での選出です。予選で確実に100点を叩き出したのは、やはりベテラン勢。チェコのPatrik Lexa、Jan Bombera、そしてドイツのHeinz Maire Hansgeは、自分たちのスコアだけでなくチーム戦のスコアも考えて予選を行わなければなりません。時間をかけて着実に100点を狙うことこそ、重要な事なのです。一方若手といえば、チーム戦でしのぎを削ることもないことから、予選から飛ばしてきます。スイスの弱冠13歳Jannisくんは、決勝進出者予選最速の2分31秒で95点を獲得。若さゆえのチャレンジといったところでしょうか。
決勝になると、そのスコアはチーム戦には関係がなくなります。あくまでも自分のためだけにメダルをかけた投てきができるようになります。そこにも着実に100点を狙うか、100点は当たり前でどれだけ攻めて早く打ち込みつつ100点を狙うか、心理戦の要素も入ってきます。決勝戦、2分16秒で投げ終えたのは、やはり最速男子、クロアチアのGoran。しかし痛恨の1ミス、95点。そしてGoranに遅れること5秒!見事100点を叩き出した同じくクロアチアのBrunoは、投げ終えた後、緊張感が解けた瞬間に芝生の上に崩れ落ちていました。
観ている側も息をすることを忘れるほど一緒に集中しています。緊張感が解けて体内にやっと酸素が回り始めた30秒後あたりから、続々と歓声が上がります。予選は4分とじっくり時間をかけたチェコのPatrikも100点で終了、ドイツのHeinzも3分13秒で100点。Heinzに1秒遅れてチェコのJan Luxaも100点。このあたりは実力を魅せつけてくれたというところでしょう。13歳のスイスのJannisくんは、時間こそ2分36秒とクロアチア勢に拮抗したものの、場馴れしていないことからか、痛恨の6ミスで70点。とはいえ、充分投げきったといっていいでしょう。次回が楽しみな選手の1人です。
女子は予選・決勝を通じて100点を出した選手はいませんでしたが、両ラウンドで1ミスしかしなかったチェコのTerezaが貫禄の1位。レーザービームのように低い弾道で正確にターゲットを打ち抜くスタイルには見惚れるばかりです。