世界選手権2013 大会最終日
最終日のことは、Facebookやら直電やらで逐一報告していたので、ご存知の方も多いかと思われます。大会の様子もFacebookや各国のWebサイトで紹介されていたので、映像もご覧になっているかもしれません。ということで結果から申し上げます。村山選手 第9種目で銀メダル、第7種目で8位入賞!
加登選手 第5種目予選1位通過、決勝では7位入賞!
プラグ遠投種目をお家芸とするスペイン勢が陥落する中、やってくれました! 村山選手は日本で始めての、個人で複数個のメダル獲得です!第2種目フライ片手投げ距離種目に出場はしたものの、本命の種目は最終日に固まった村山さん。日本での練習から大会開催までの練習日の間に、リールの調整はしっかりついていたようです。途中、練習を見る機会があったのですが、リールの回転は高め安定、もうちょっと行くとバックラッシュする、というちょっと手前で、いい感じにラインが膨らんでいました。ロッドとのバランスもバッチリ。何の問題も感じられませんでした。本人にコメントを聞いた所「リールの調整は問題ないです。で、練習している面々を見ると、負ける気はしないけれど、絶対に勝てるというほど実力に違いがある訳でもなさそう。う〜ん、やっぱり世界選手権に出てくる選手は『レベルが高い』ですね〜」と。実際に、同じときに投げていたAndyは、まだブレーキブロックの調整に悩んでいるようで、バックラッシュ連発。ドイツのOlafも甲高い音でSM1600が唸りをあげるものの、直後にバックラッシュ。ギリギリが狙えていません。それを見て、村山さんいけるんじゃない? と思ったのですが、当の本人はもっと冷静で「名前がわかんないんですけど、上手いのがいるんですよ。やばいかもしんない」と冷静に分析していました。
18gのプラグにラインをつけて飛ばせる飛距離は、恐らくMaxは決まってしまうと思います。120mまで飛ばすことはできないかもしれません。しかし、そこに行き着くまでの数メートルには、団子になって各選手が記録を残してきています。当日の風を読みきって、それを上手く使いこなした選手が、ポディウムの真ん中に立てるのでしょう。村山さんが練習をしていた数日のほんの一瞬だけ、練習の時間を一緒にしました。本当にそんな、村山さんが警戒するような選手はいたのかどうか、そんなのは見間違いでしょう!と笑いながら当日の決勝を迎えたのでした。
エリック・ケルテラー(Erik Kelterer)
2006年のアイルランド大会の時に8種で煮え湯を飲まされて、金メダルとなったそのときの金メダリストが、何を隠そうこのErikでした。そのときも完璧な調整でマルチプライヤー正確度種目の決勝を100点で投げ切った彼に対し、自分のできることは全てやり終えた側としては、何ら文句も出なかったことを覚えています。そして、今回の村山さんとの対決も同じでした。村山さんの渾身の1投は、完璧でした。風も追い風、決めるときは決める、そんなパーフェクトな投擲をしていました。しかし、次の順番のErikの投擲となったとき、村山さんよりもちょっといい風が一瞬吹いたのも事実ですし、それをしっかりと捕らえ、完璧のスイングでプラグを送り出したErik。ほんの僅かな差ですが、村山さんよりも遠くに飛ばしてしまったのです。ここは「あっぱれ」と言いましょう。あの投擲をされたら、仕方ないです。
とはいえ、強豪のJensやJordiを差し置いての2位は立派です。有言実行、やってくれました!こころから言わせて下さい、おめでとう、と。
反面、得意種目でもあった次に続いた7種スピニング両手投げ種目、は、銀メダルで気が緩んだか、今ひとつ調子が出ていない様子。決勝出場の8位までに入って予選は通過したものの、9種の時の気構えが見られませんでした。それが油断だったのか、気持ちの欠乏だったのか、は、本人でないとわかりません。普段の練習の時は、朝から晩まで投げ続けても、体力も気力も欠乏するなんてことは、めったにないでしょう。しかし、大会となるとそこに緊張感が加わり、少ない投擲数でもごっそりと体力を消耗することは、日本でも経験することです。しかもそれが、世界選手権ともなると…。
2000年にKalmar(Sweden)で開催された世界選手権のとき、まだ決勝システムが確立しておらず、その時だけは予選、準決勝、決勝と3回の投擲を行いました。その時、自分も8種で決勝まで残り、準決勝では2位で通過したものの、その段階で全てを使い果たしてしまっており、抜け殻のような状態で決勝で失速した経験があることから、今回の村山さんの7種、分からないでもありません。でも、端から見ていたら「もったいなかったなぁ」と思わずにはいられませんでした。まだ行けます、是非次回は、表彰台の真ん中を狙ってください。
最後の種目、第5種目スピニング片手投げ距離
この種目が一番最後に来ていることには理由があります。国別のチーム対抗、5種総合を含む各種総合種目、全ての総合種目において、要となっているこの種目こそ、大会の酉にふさわしい種目なのです。8種で予選100点を出した、チェコのJan Bomberaに聞きました。
やっぱり緊張したか?と。そしてその返事は「100点もそれなりに緊張したけれど、チーム対応がかかっている他のアキュラシー種目に比べたら楽なものだ」と。そうです、トップクラスの選手たちは、各自のスコアだけでなく、チーム対抗のことも頭のなかに入れて、投げているのです。ターゲットを1つ外すことも許されないのです。そして、この5種は、何としてでも1投はコートの中に入れて、記録を出さねばならないのです。かつて、ドイツのイタズラ親父、Wieboldも言っていたことを思い出します。「1投はチームのため。あとの2投は自分のため、そして思い切り投げるんや」と。世界選手権に出場するほとんどの選手は、チームのことを、各国の代表としての役割をきちんと頭のなかに入れて戦っています。そしてそれを周りのチームメイトが支えているのです。だから強いのだということを、今回改めて認識した次第です。
そんな大事な最後の種目の予選を、ぶっちぎりで1位で通過したのは、加登選手だったのです。いろいろな思惑があって、また追い風のタイミングを待って、各選手それぞれが持ち時間をいっぱいまで使って記録を狙ってきたため、競技の進行が遅れ気味になっていました。それは5種にかぎらず、その前の7種でも9種でも同じです。審判のところにも「巻き気味で進行するように」との伝令も入りました。
4コート中3コートで全員が投げ終わった後に残った第3コートで最後に投げたのが、実は加登さんでした。しかもそのときまで2Fの状態だったようす。それを知らずに、最後の投擲を別のコートから見ていたのですが、完璧なステップで回り込んだ後のフィニッシュの末、良い角度で飛び出したプラグは落下地点で待ち受ける審判の頭上を越えて行きました。どう見ても70m台後半の記録でした!
記録を確かめにモニターのところに行くと、まもなく加登さんの名前が一番上に食い込んできたのです! 渾身の1投! すべての要素がこの1投に詰め込まれていたといっても過言ではない、そんな1投だったのです。仮にこの1投が、ここまで飛ばず、7位くらいでの予選通過だったら、また違った結果だったかもしれません。あるいはあの予選の1投が、決勝で出ていたら、また違っていたのかもしれません。
しかし、試合には「たら・れば」はないのです。アキュラシー種目でも感じた、勝つ選手は気迫が違う、ということを、この種目で一番感じたのは、他でもない、Christien Zinner(オーストリア)からだったのです。そして彼は結果的に、その気迫でプラグを遠くに押しやったのでしょう。見事金メダルを獲得したのでした。初日、彼のお母さんのAlenaが、2種で金メダルを獲得、2日目はお父さんのMarkusが、8種で金メダルを。そして最終日、息子のクリスチャンが、5種で金メダルを獲得する、といった、親子3人がそれぞれ金メダルを獲得という偉業を達成したのでした! 両親に追いつくための渾身の1投の末にもぎ取った金メダルは、Christienにとって最高の思い出になったことでしょう。おめでとう!
しかし、この家族は凄いです。親子全員がメダルをとってしまうのだから、しかも世界選手権で。
Kuza家、Mosco家、など、親子で出場あるいは審判と子供、という組み合わせは他にもありますが、3個の金メダルが一家族のところに行くなどということは、前代未聞かもしれません。ICSFではここ数年のプロジェクトとして、キャスティング年表みたいな冊子を作ろうと計画しています。その歴史の1ページにも今回の記録は掲載されることでしょう、きっと。
そしてバンケットに続きます。