世界選手権2013 大会2日目
またしても雨模様の大会2日目。どんよりとした空からは冷たい雨が街灯の下のアスファルトにある水たまりに沢山の波紋を作っていた。出発してきたときの日本とは比べ物にならないくらい涼しいを通り越した気温。波乱の幕開けとなるのか、それとも…。
第4種スピニング正確度種目
2日目最初の種目は、第4種スピニング正確度種目。会場に到着するとすでにコートは設置済み。ドイツのコートビルダーチームの活躍ぶりには、このところ毎回のように頭が下がる。ただ、何かがおかしい。黄色い的が1個多い!? 効率化を考えて、予め8種用のターゲットも並べておき、種目と種目のバッファを短くする作戦だった。4種の試技中も上の黄色い板だけがはずされて、台の部分を残したまま、競技は進行したのだった。
この種目、やはり圧巻だったのは、クロアチア勢。練習を見ていてもはずさないことひときわ。審判で見ていても飛んできたプラグが、ターゲットの上で一瞬とまり、そのままターゲットに吸い込まれていくように当たり、そのまま停止する。これは「技」としか言いようがない。ブレーキを掛けるのではなく、ロックしてしまって、それを送り込むことで的に落下させる、という表現になるだろうか。マルコが編み出した技は、クロアチアメンバーに広く行き渡り、個々がその技を磨き上げているのだ。なかでもゴランの技はピカイチだ。4種の決勝。1位通過で第8コートで投げていたゴランの気迫は、第3コートの審判のところまで伝わってきた。投擲の間に移動する、その瞬間にチラ見をしても、他の誰よりも気迫を感じられた。そして二巡目の5番ターゲット、2投目のプラグがターゲットにあたった瞬間、渾身のガッツポーズで歓声が上がったのだった。さすがだ、ゴラン。心からおめでとうをいわせていただきます。
第8種マルチプライヤー正確度種目
この種目のヒーローは、枯れたいぶし銀、マーカス・クラウスラー(Markus Klauslerスイス)でしょう。決勝では第3コート、自分が審判をしていたコートでしたので、その一部始終をじっくり見ていました。その集中ぶりと正確さは、4種のゴランの「若さ」とは違い、ギラギラしていないものの、威厳というか凄みというか、最近の言葉では『覇王色の覇気』とでもいうのでしょうか。圧倒的なものがありました。それが20投、途切れること無くラインを通して竿先からつながるプラグに伝わり、さも意志を持ちながらターゲットに向かって飛んでくるのです。そういうときの審判は、同じように気持ちが疲れるものです。呼吸が同調するのかそれとも覇気なのか。決勝で100点、簡単ではありません。しかし、それを成し遂げたとき、優勝や順位ではない、得も言えぬ達成感が押し寄せてくる感覚を、今回、マーカスの審判をして味あわせてもらいました。3種でもサブリナが予選で100点を出した時にも審判をしていましたが、今回の達成感の比ではありません。
第6種フライ両手投げ距離種目
この種目でも波乱がありました。優勝はアメリカのヘンリー・ミテル(Henry Mittel)! スティーブが今回来ていないこともあり、合衆国国家は無いだろう、と勝手に考えていたのですが、期待を破ってくれました。今回は予選の時にHenryの審判をしていました。安定して距離を揃えていたのですが、最後の1本が伸びて頭上を越えて行きました。それが決勝進出を決定づけ、その勢いで決勝にも勝ってしまったという訳です。Henryも誰にはばかることもない、キャスティング・オタクの1人。ACAルールのキャスティングとICSFの両方を練習しないといけないから大変なんだ、と言いながら、嬉しそうにしているヤツなのです。
数年前にHenryの地元、Oakland Casting Clubの大会にゲストとして参加したことがありました。そこではもちろん、水の上でのACAルールでの大会だったのですが、当然(?)ICSFルールの道具も持ってきていています。そのHenryと同じく地元のChris Korichが一緒に練習をしてルのに気づき、またChrisも久しぶりのボクに驚いたようで「なんでお前がここにいるんだ」と言いながら、噂に聞いていたのでしょう、「フライ正確度の早打ち、どうやってるのか見せてくれ」と、Henryのロッドをかりてやらされたこともありましたっけ。彼も今回は大会の前に開催された会議から参加していて、現地入りしてからの時間的な余裕はあまりなかったでしょう。自分の練習時間よりもICSFの会議に出席し、アメリカ代表として意見を述べ、周りの意見を聞くときは聞き、判断するときは判断をし、更には第6種目で優勝までしてしまう、というスーパーマンです。いい形にキャスティングを変えていきたい、という信念では同じものを持ち合わせていることが確認できた、今回のICSF総会と38回世界選手権は、いろいろな意味でのターニングポイントだと言えるのでしょう。
2日目あったサプライズ
審判のひとりが誕生日でした。そして審判が全員集められ、突然、HappyBirthdayの大合唱! これが大会開始前のこと。そして今日のプログラム終了後は「誕生日会&途中のお疲れ様会」として、審判員テントの中で宴会が始まりました。各国から持ち込まれたワインやウォッカ、リキュールが振る舞われました。お互いなれない言葉でもコミュニケーションを深め、同じ酒を飲み、同じ大会に出場することで、深まる絆というものをここでも実感することができたのでした。
やはり、こればかりは『場数を踏まないと』わからないものですし、「場数だけ踏めばいい」というわけでもありません。信頼関係をどうやって築いていくのか、それこそが基本であり全てである、ということを感じずにはいられませんでした。
そして、3日目、へと続きます。