2012年世界選手権エストニア大会2日目4種6種8種
2日目はアキュラシー系の種目が2種目とフライ両手投げです。本気のキャストを審判しました。何が違うって、気迫が違います。
4種8種のプラグアキュラシー
投げた瞬間に、あたりはずれ、がわかるというのは、どの国のことでも同じことですが、最後の最後まで当てようと粘る「執着」という意味では、世界選手権はひと味違うようです。そういう意味では、前日のアレンバーグのときの方が「粘っていた」と言えるでしょう。シートの上を遥かに超えていったプラグが引き戻されて黒い的に当たる、というのは何度も見ました。そう、さも、黒い的がプラグを吸い込むみたいに、呼び込んでいる、というような感じで当たるのです。
4種の圧巻は、やはりゴランでしょう。審判をしながら遠目に見ていても「クロアチアスタイル」で的の上に落とし込まれていくのがわかるのと同時に、その表情から緊張感が伝わってきました。ギアを改造せずダブルハンドルを使って勢い良くスピンさせるだけで早巻きを実現させている一方、それだけ手も早くまわす必要がある。彼らはそれさえも、リズム、にしていました。もう何年も前からやっていることを、今年はそれを熟成させてきました。3位のブルーノも同じです。
8種
マルチプライヤー正確度種目ではドイツのオラフが100点を予選で出したときの審判でした。スピニングロッドから作ったのであろう竿をたっぷりしならせて肩越しをかすめながら飛ばし、あっという間に100点満点。余裕?と思いきややはり表情は緊張の面持ちでした。アキュラシーでどれだけ選手が緊張していたか、は、その息づかいをそばでずっと聞いていた加登さんが詳しいでしょう。そんな中で優勝したのは、昨年に引き続き、ポーランドのヤン・キタでした。彼のキャスティングもとても安定していて、8種9種のスペシャリストをめざしている、ということがよくわかります。自分に与えられた仕事をきっちりこなす感じです。そのポーランド選手をはじめとして、多くの選手が左巻きのリールを使っていました。
USAは右巻きですが、Henryは巻き取るハンドルの回転が逆巻きのリールを使っていました。改造してます。
6種
圧巻は、Josef Luxaの世界記録を出した瞬間でした。この種目ではちょうど彼の投擲の審判をしていて、チェコチームがどんな風に試合を進めているかを具に感じることができました。彼が使っている道具で新しいものというのは、ランニングラインとフライだけでしょう。それ以外は何年同じものを使っているんだ、と思えるくらい、古くから使いこなしている道具です。それでいてZziplex以上に飛ばしてしまうのだから、凄いことです。世界選手権の話を聞かれて、説明できずにいつも悔やむのは、彼らが作っているループを説明することができない、ということ。ループじゃないんです、彼らのは、尖ってる。
そのループの作り方、どうすればいいのか、そのノウハウになるヒント、を、実はこのチェコチームのメンバーから教えてもらいました。今更ですが、目からウロコ、ということがたくさんあって。
その秘訣は、今後のネタに使いますので、しばしお待ちください。だって、聞いただけで、まだ実践していないのですから。
話を聞きながら思ったのは、教える、というシステムが、きちんと確立していることが、今の日本とは全く違うことだ、と。どうすれば飛ばせるのか、目的にあったループを作るにはどうすればいいのか、ということがはっきりしているらしい。例えば、フライ距離種目。日本で開催されているとき、選手の隣にいるサポートは、風の具合をみたり、バックのループの状態を見たり、もちろん絡んだラインを直したり、などの仕事をしていることだろう。しかし、チェコチームは、どこをどうすればループを整えられるのか、いつもしてきていることとの違いを明確に伝えているから。実際に、今回の大会のときも、同じことを何度も指摘された選手は「わかってる、うるさい!」と、サポートしていた選手に文句を言っていたらしい。しかし、どこをどうすればどうなる、ということがお互いにわかっているから、できることなのでしょう。
今まで参加して来たなかで、今回ほどチェコチームと近づけた機会は、中国の大会を除けば無かっただろう。いや中国の大会があったからこそ、今回、突っ込んだ話をすることが出来たのだろうと思います。
お互いが英語を十分に話すことができず、しかも強面のチェコチーム、一番つきあい憎い相手だったと感じていた。しかし、ギリがJanaやTerezaと仲良くなってくれたことをきっかけに、少しずつお互いの距離が近づいてきた。そして昨年のチェコ大会。3か月弱という準備期間をものともせず、開催にこぎ着けたその裏には、そうとうの苦労があっただろうことは、想像に難くない。その労を互いに理解しているからこそ、互いに理解し合えるところを感じているからこそ、言葉の壁を一つの理由として閉ざされていた門が、少しずつ開かれてきたのだろうと思えてならない。事務局長のJosef Dorazel、チェコチームの監督、Josef Luxa、そして活躍中の選手たちとのつながりは、一朝一夕には築けない「絆」だということは、間違いないことだと思えた瞬間でした。