2012年世界選手権エストニア大会3日目(1)9種7種 (5種は(2)で)
大会3日目。懸念されていた雨がついに降り始めた。
9種の女子の決勝が終わった午前中の早い時間からの雨はその後試合が終わるまでやむことはなかった。
そのような条件の中ででも、この大会では好記録が続出。さらには思いがけないような結果で終わった種目も少なくはありません。
9種の予選
この種目に相当の力を入れているUKチームが勢いを見せます。調整が旨く言っていないように見えたAndyが3投目に115mを超える記録で1位通過。そしてそれを追ったのがスペインチーム。8人の決勝メンバーのうち3人を入れてきました。
決勝女子。予選6位通過のサブリナが、1投目に100mを超えてきます。そしてそれを追うことになった残りの5名は、いきなりの記録に少し焦りがでたのかもしれません。1位通過して遠投種目にも安定した成績を残すようになってきたポーランドのMagdaも、今回は残念ながら記録を伸ばすことができませんでした。結局、その1投がダントツの記録となり、サブリナが優勝しました。男子もいろいろとありました。
女子の決勝終了後、男子の決勝がなかなか始まりません。本部付近ではいろいろとざわついています。予選中の3コートでの出来事で、論議が起こっていました。ドイツのErikが投擲終了後にプレートを踏み越えて出た、ことが争点でした。その場で審判が指摘せず、他の選手たちから意義が上がったのです。直ちにテクニカルコミッティが招集され、当該のコートを担当していた国際審判を含めたメンバーで会議が開催されることとなりました。しばらくして出された結果は、Erikの第9種目の記録はゼロ、という決定でした。
他にもショックリーダーの件で、一悶着ありました。ドイツチームが使っていた「黒」のリーダーの可否についてです。各国の選手がルールに則って、明るい色、のリーダーを使っていたにも関わらず、ドイツの数名の選手が、黒、のリーダーを使って練習していたことについて、試合前に「可否」が問われたのです。識別できるから問題ない、とするドイツ側、ルールには「明るい色」とあるだろう、と主張する反対意見。これも試合前に「黒は不可」と判断が出たため、異論を唱えていた選手たちはこれで公平な試合ができると納得したのでした。「そんなのは当たり前のことだろう」と思われるかもしれませんが、勝つことにこだわるが故、ぎりぎりを狙ってくる、ということも、ゼロではありません。そして、今回のように、大会期間中にも審議され、その場で判断がくだされることもあるのです。
「そんなのは当たり前」が、そうではない、という事例をもう一つあげるとするならば、決勝が行われている際に、次の種目の練習をすることの可否があります。審判長のThorgeirも「決勝戦出場者に敬意を払って、練習をやめてください」と何度か繰り返しアナウンスしていたのですが、それでも次の7種の練習を続けている選手が何名かいました。外野で審判をしている我々は、落下地点を探すのに目・耳、その他五感をつかっていち早く探せるように準備しています。そんなときに、同じロッドの振り切り音がする、落下の音がする、糸ふけがコートに入ってきたりする、のは注意力をそがれる原因でしかないのです。そして何よりも、決勝に出場した選手にとって、集中力をそがれる要因を作っていることに他ならないのです。
多くの選手は、Thorgeirのアナウンスでラインを巻き取って練習をやめていたのですが、数名の赤と青のユニフォームの選手が、止めずに続けていたのがとても残念なことでなりません。
9種の決勝、男子でも大きな番狂わせがありました。
1位2位を何とスペインが独占したのです。しかも優勝はなんとVicentです。114mと抜け出しました。Andy, Janなどの強豪を押さえての優勝です。風をうまく捕まえたことが大きな要因ではあるでしょう。しかし、それをこの場でやり遂げたことは、今までの練習の積み重ねがなし得たものだということでもあるのです。彼とはときどき、メールのやり取りを昨年から続けていましたが、質問してくることは必ず9種のことでした。彼なりに練習を続け、そしてチャンスをものにした、その努力には敬意を払いたいと思います。
雨の勢いは収まらないどころか、ますます激しくなります。今回の大会では、審判は基本3名で1コートを担当したのですが、プラグ距離種目では、コートとコートの間が近すぎることから、予定していたコート数8コートを4コートに減らしたため、2コート分の審判が1つのコートを担当することになりました。我々はアウトサイド(外野、つまり落下地点)側です。プラグの落下地点に反射板を持っていき、すぐに計測するやり方です。ゼッケン番号とプラグに書かれている番号が一致するか確認することも、我々の役目の一つ。十分な数の傘が用意されていなかったため、外野側の審判には支給されず、紙はびしょぬれになり書くことも捲ることもできない状態でした。
しかし7種の競技が始まるまでには、運営をサポートしていたドイツ側のスタッフが対策を考えました。スコアシートそのものを、パウチしてしまい、その上から油性ペンで書く、というやり方に切り替えたのです。もちろん、それでも書きにくい状態は続くのですが、順応する適応力は経験からのものなのでしょう。
Jens Nagel
7種での圧巻は、何と言ってもJens Nagelです。悪条件の中、なんと一人ぶっちきりに飛ばして、世界記録をたたき出しました。外野側から見ているだけでも、今回のJensのスイングスピードは、他の誰のもの
よりも早く、シャープに振り切っている、その速さは外野からでもわかりました。そして予選・決勝を通じて、120mの大台に乗せたのも、Jensただ一人でした。使っている道具や投擲フォームに、昨年からの違いは見受けられません。ただ何が変わったのか。それはひとえに「スイングスピード」だと思うのです。道具を使いこなし、スイングスピードを速くすることが飛ばすことの基本、とするならば、その基本を忠実にこなしてきたということなのでしょう。風は相変わらず後方から平均すると4m前後で吹き続けます。今回は手持ちの風速計を使って、投擲の際の風速を計りました。各コートで1台ずつ審判が計測します。計測の方法は必ずしも統一されている訳ではなく、1台の風速計を使って全コート分を計っていたケースもありました。そして今回の風速計にも個体差があり、二つ並べて計測すると、片方は2.8m、もう片方は3.2mなんてことも。今回の計測の方法は、前日のフライ種目の際にやり方の説明がありました。「フライ(プラグ)が飛んでいる間に、3mを超えないこと」というルールブックに書かれていること、が基本です。とはいえ、飛んでいる間は数値を黙視することができるにせよ、リリースの瞬間や落下の瞬間を判断することはなかなか難しいことです。というように審判が迷った場合は、必ず「選手に有利になるように。疑わしきは“Yes”だ」と、Thorgeirは繰り返します。
ルールブックには、コートの中には必ず世界記録をマーキングすること、となっています。今回はそれがものすごく役に立ったのでした。風速は幸いにも、フライやプラグが飛行中に3mを超える、割れる、ということが、世界記録が出たときには起こりませんでしたが、どの投擲が超えたか超えないのか、はいくらレーザーを使っても瞬時にはわかりません。そのマークの位置から類推し、該当しそうな投擲の直後には、その道具が持ち帰られないうちに説明し、回収・確認する必要があるのです。そういう意味では今回、WRのプレートは非常に役に立ったのです。そう、Jensの予選の投擲は、世界記録を塗り替えました。そしてその証明書はオーストリアのHelmutが作りました。投げた時間の記録は、Olafが撮っていたビデオのタイムスタンプからの確認です。世界選手権といえども、全てのものがそろった形で運営されてはいない。その場でどのように適応・対応していくか、それを各国から選ばれた役員たちや国際審判が集まって審議し、適宜運用しているのだということがわかりました。
リーダー問題のとき、会長のKurtは当初、黒はOKだ、としていましたが、審判団はその判断を覆し、黒や透明はNGと決定し、大会は進められました。黒がOKになった場合、有利になるのはドイツチームです。しかしルールに則って、審判団は黒をNGとしたからには、他のラインを使わざるを得ません。会長が判断したからといって、必ずしもそれが通るとは限らない。ルールに従って運用されること、そんな「当たり前のこと」のことが「当たり前」に適宜判断されて進められている、ということで、大会は進められているのだ、ということが今回、よくわかった次第です。
長くなったので、5種以降は次の投稿で。