メジャリングの考察2017その3

フォルスキャストをしないウエットラウンドのメジャリングについて解説します。先ずは基本中の基本のウエット用メジャリングです。

フォルスキャストできないウエットラウンド

ドライラウンドを打ち終えた後、No5のラインの長さからNo1のターゲットまでの長さに手繰る必要があります。ドライラウンドのNo5を投げ終えた時に、保持していたラインを離してしまうと基準がわからなくなりますので、決して離さないようにしてください。No5からNo1までの基本のメジャリングの方法は、1mを5回手繰って8mの距離に合わせることです。うっかりフォルスキャストをしてしまわないよう、ロッドを持つ手を下にして、ドライラウンドの時とは左右の手の上下を逆にして、1mのメジャーを5回繰り返します。

右の写真はドライラウンドのメジャー、左がウエットラウンド。同じ長さを左右の上下を反対にして測っているのがわかる


長さがNo1の距離になったところで、地面にあるラインの向きを左に向けて方向転換します。No5の方を向いたままのラインをピックアップしてそのままシュートするとラインが空中で回転してしまい、結果的にカーブキャストになってしまいます。No1のターゲットとリーダーの先端のフライが一直線になるくらいまで、方向を左に向けて下さい。そして、一呼吸置いてから、ピックアップ&シュートで的を狙います。ウエットラウンドでは、ホールは使わずに、あくまでもロッドを持つ手でラインもホールドして「ピックアップ&レイダウン」でターゲットを打ち抜くことが基本です。フォルスキャストが出来ない状態、ラインスピードが上がらない状態でホールをしてしまうと、ほぼ間違いなくオーバーターンで苦しむことになりますので、ご注意下さい。
さて、No5からNo1までのメジャリングはできるようになったとして、次にNo1からNo2、No2からNo3へのメジャリングの方法も覚えなければなりません。投げる順番は、左の一番近いNo1から順に、1-2-3-4-5-1-2-3-4-5と続けます。ターゲットに向かって投げた後に次のターゲットまでの距離をメジャリングしてから、次のターゲットを狙います。

各ターゲット・直線距離の差のおさらい

この表から4つの長さがあることがわかります。そして、この長さを覚えこんで下さい。ドライラウンドからNo1の距離に戻した最初の1mのメジャリングの長さを基準にして、No1の次にNo2を狙う際はウエットラウンド基本の1mのメジャリングを、No2からNo3を狙うときには基本の位置から20cm足した所、No3からNo4を狙うときは37cm足した所、No4からNo5を狙うときは基本の位置から46cm足した所、を覚えておいて、長さ調節するのです。下の写真3枚は、ドライラウンドのメジャリングですが、調節している様子がよく分かるので、参考例として掲出します。

長さの調整の例。額の生え際に手首を当てて距離を測っているが、目的の長さに満たない場合は…


例えば1mの位置はロッドを持つ手を下いっぱいにおろしていたら、その手の反対側の耳たぶ付近、120cmはこめかみ付近、137cmは頭の上、146cmは腕を目一杯上に上げた所、というような覚え方をします。もちろんこれは一例に過ぎません。メジャーで実際に測ってそれぞれの位置が自分の体ではどこにくるのか、をチェックします。146cmが一度で取れない方は、1mと46cmとに分ける等で対応できます。グリップから肘までの長さを使って、調整しているのは、チェコのJanaのドライラウンドの様子。ウエットラウンドのときにも同じように細かな調整が必要な場合もある、という参考例。

このように別の体の部位を使って、必要な分を正確に計測して調整する


慣れてくると体に振れずとも、固定する肘の位置等で距離を測ることもできるようになります。こちらはドイツのJana Maiselのドライラウンドのメジャリング。体には密着させていないが、肘の位置を固定することで常に一定の長さを測っている。

キャスト時の注意

10番の競技用フライでも、これだけの水柱が立つくらい、ヒットした瞬間のスピードは、早い


ターゲットを狙う時に、No1以外は次のターゲットまでのラインがたるんだ状態になってしまうことが多いので、手元のラインをシュートの時までに伸ばす必要があります。そのやり方は幾つかあるのですが、まず最初は、バッキャストの時に伸ばすことを心がけるところからスタートしましょう。バッキャストに移るとき、最初に手元のたるみを取るためにロッドを持ち上げて、ラインが伸び切ったところでバックキャストモーションに入ります。スナップを効かせてラインを上空に、やや強めに放り上げるようにします。そして肩・肘・手首の順に回転運動を加えながら、最終的にはそれらの関節がまっすぐ一直線になるようにしつつ、ロッドティップをターゲットに突き刺すようなイメージでフライを的に叩きつけるのです。

ポロリと外すことが多い「魔」のNo1ターゲット

一番距離が短くて、当てやすいはずのNo1ターゲットですが、いやはや、外すことが一番多いのも、このウェットラウンドで投げるNo1ターゲットかもしれません。その要因を並べてみますが、思い当たる節が多いのではないでしょうか。
1) 大きな方向転換を強いられる
2) 距離が短いとロッドが硬いため、ラインの重量をのせにくいが故に投げにくい
3) リーダーも太くて短い上、力み過ぎによるオーバーターンを起こしやすい
4) そもそもドライラウンドでメジャーの誤差が出ていた
5) テンポが変わって最初の1発目だから
などなど、他にもあるでしょう。つまり、心してかからないと外してしまうのです。
対応策ももちろんあります。
1) キチンと方向転換させる
2) 跳ね上げ気味にしてロッドティップ側を曲げる感覚で振る
3) あまりにオーバーターンが頻発するならリーダーレシピ見直す
4) メジャリングの精度を上げる
5) 一呼吸おくリズムを取り入れる
というような点が、まず最初の注意点になります。

タックルについて

ICSFルールでは、競技に使えるフライラインは、競技用の「T38のみ」とされていますが、JCSFではキャスティングスポーツ入門の門戸を広げたいとの思いから、日本国内で行う国内大会においては、T38以外のラインも使えるとするルールを定めています(World Cupは国際大会です)。さすがに「道具を揃えないと競技に参加できない」のでは、試してみたいと思う方々の気持ちを萎えさせてしまいます。前回のICSF総会の際にも、他国から同じように、この種目のラインを自由にする提案がなされましたが、競技人口やその国での普及状況等の違いによって、自由にする提案は否決されました。すでにT38を使うことが一般的になっている国では、新たな選択肢を増やすようなことをするのは得策ではないかもしれませんが、普及を考える国々は、まず釣りの道具から、という部分で違いがあります。
T38を使う前の時代に使われていたラインを参考までにまとめてみます。
3M WetCel #8 Type 4
3M WetCel #10 Type 2
3M T38(Orange), T40(Gray)
時代を感じる名前ですね。今ならば、もっと良いラインがあるかもしれません。使っていたロッドも、カプラス・Skish MK-IIとかでしたし、そもそもターゲットの大きさも76cmでした。このように8番10番のタックルで、充分100点を狙える競技でもあるのですが、1994年に世界選手権に参加した代表団が持ち帰ったビデオや、その後来日したドイツのThomas Maire選手等の影響をうけて、専用ロッドと競技用ラインが日本でも主流となり、今に至ります。海外では今や日本人選手の代名詞ともなりつつある「早打ち」や、今回ご紹介した基本のメジャリングを発展させた「戦略的なメジャリング」へと進化していくのでした。

大会案內

今週末には成田市でフライ種目のみの大会が開催されます。
今回3回に渡ってフライ正確度種目をご紹介させていただきましたが、言葉で伝える難しさを改めて痛感した次第です。とはいえ少しでも興味をもっていただけたのでしたら、是非一度、ご自身の目で競技をご覧いただきたいと思います。YouTube等にも映像はありますが、実際に見たときとは印象が違います。トップクラスの選手がやっている映像をみると、いとも簡単に見えるかもしれませんが、いやいや、なかなか難しいのです。距離がわかっているから誰でも当てられる、たしかにそうかもしれません。しかし、当日の風のコンディションや自分自身が受けている目に見えないプレッシャー、緊張感からくるオーバーパワーが作り出すトリッキーなオーバーターンで手前に落ちたり、念入りにつけたラインコーティングが仇となりラインが手から滑り落ちる、等々、常に100点を出し続けることの難しさは、やってみないとわかりません。世界選手権で審判を勤めた時に、この種目で当然のように100点を出したチェコのPatrik Lexaのサインをする手が震えていたことは、今でも覚えています。メジャーはあっていて当然、100%当てる気持ちで投げているのだ、というオーラを強く感じました。
T38なんて無理、とは言わず、お持ちの道具で一番高番手の道具を工夫して、ぜひこの種目をご体験下さい。

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