超ショートホール

Fly Fisherにも一度起稿させていただいた「超ショートホール」について、ご質問をいただきました。

Magdaはポーランドスタイル。肘を突き出す形でブロックしてホールの距離を調整している


日本のキャスティングスポーツの歴史は、幾つかの変革の時期があります(これもひとつの記事になりますね)。1970〜80年代に参戦していた選手が築いた歴史を第1期とすると、1994年から2001年のワールドゲームズ秋田大会までが、第2期でしょうか。この2期の時代に出会った選手たちとの交流が、今の日本におけるキャスティングスポーツの基礎を作ったといっても過言ではありません。見ること聞くこと全てにおいて目からうろこの日本からの参加者たちに、競技の合間の練習時間を使って、いろいろなことを教えてくれた仲間たち。そんな彼らから教えられたひとつのテクニックが、超ショートホールでした。

Steveのインパクト

Steve Rajeff, World Games Lahti, 1997


キャスティングスポーツにおいて、生ける伝説として君臨する選手の1人に、Steve Rajeffがいます。最近はアメリカの大会に出ているくらいになってしまいましたが、1980年代90年代は頻繁に日本にも来日して、そのテクニックを披露してくれていました。当時は使っているフライラインもグレーラインで実に写真写りが悪いものでしたので、Steveが投げるときのループの形などは言葉の表現でしか伝わってこず、上と下のラインがぴったりくっついて一本の線みたいになって飛んでいく、なんてことがまことしやかに語られていた時代でした。そして多くの人が来日したスティーブのキャスティングフォームを写真にとり、参考にし、真似をして、そのスタイルを身に着けようと練習に励んだものでした。ここにひとつの落とし穴があったことに気づかずに…。

釣り用のロッドと専用ロッドの違い

ブランクの太さの比較。Paradinの太さがよく分かる


先日の記事で、釣り用のロッドと競技専用のロッドの太さの違いを比較した写真をアップしました。ティップセクション側のフェルール部分の太さと、4番のロッドのバット部分の太さがほぼ同じか、4番のバットの方が細い、という写真です。専用のロッドは、直径が太くてテーパーがきつい、つまり反発が早くなるようにデザインされています。より早いスピードでラインを飛ばして、飛距離を稼ぐための工夫のひとつです。ということは、釣り用のロッドが反発するタイミングと、専用ロッドが反発するタイミングには、当然のことながら違いが出てくるということになります。
遠くに飛ばすには反発の強いロッドを使いたい。反発が強い=反発のスピードも早い=ラインスピードが上がる。スピードが早いということは、反発している時間が短い。時間が短い=ホールできる時間も短くなる。というような「風が吹けば桶屋が儲かる理論」になるということなのです。<

まとめると、このようになるかと

バット部分をもう1曲げするタイミングでホールを入れる直前のタイミング


遠くに飛ばすためには、ラインスピードを上げる必要がある。そのためには反発力の強いロッドを使う。反発が強ければ、ロッドが曲がって跳ね返るまでの時間は短くなる。とすると、ホールしていられる時間が短くなる。時間が短い=ホールできる距離も短くなる、ということです。スティーブは腰の回転も上手く使うスタイル。それには肘でブロックしてホールの距離を調整するテクニックは使えず、フォロースルーすることになる。となるとホールディングラインを離した手は後方に大きく延びていくことになり、長い距離を引いているようにみえなくもない状況となる。これが後ろまで目一杯ホールをするのだ、の勘違いを産む原因となってしまったが、実際にホールしている時間はかなり短い。Alenaのスタイルも同じ。

トラウトディスタンスでは?

3Mのフライライン・エキスパートディスタンス#5を使うフライキャスティングカテゴリーのトラウトディスタンスでは、5番のラインの軽さからロッドを曲げるための負荷を産み出すためには、それなりの長さのラインを出しておく必要があり、またバットからロッドを曲げて反発させる必要もあるため、タイミング的にはT38を使う種目よりも長い時間ロッドに負荷をかけることになります。となるとホールしている時間も自ずと長くなるというものです。フライキャスティング世界選手権の映像でトラウトディスタンスのキャスティングをしている選手たちが、一様に大きなストロークでロッドを振っているのも、そういう理由からなのです。
一見、特異な投げ方に見えるかもしれませんが、そこまで極端な投げ方を体得してしまえば、普通の釣りのキャスティングの難易度はぐんと下がります。余裕をもったキャスティングができるようになると、魚釣りがより楽しくなるというものです。突き詰めて極めようとするキャスティングスポーツの投げ方ではありますが、その恩恵は実際の釣り場で、日頃の練習の成果をひしひしと感じることでしょう。この冬の間に1回でも多くの練習を積み重ねることで、シーズンインした後の実釣のタイミングで笑顔の数が増えるのであれば、それに越したことはない、というものです。

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